2050年の未来?

「博士!ついに完成しましたね!」

「うむ。ワトソンくん。ようやくわれわれの研究の努力が実を結んだ、ということだ」

その言葉に助手一同から拍手が湧き起こる。

普段は気難しげな顔しかしないナガエ博士もこのときばかりはその皺深い顔をくしゃくしゃにほころばせている。

「博士、では、早速起動してみましょう」

助手のワトソンは博士に起動スイッチ前の席を譲った。

「では、博士。起動を願います」

うむと重々しくうなずき、博士は起動スイッチを押した。

一同が固唾を呑んで見守る中、中央の寝台に横たわっているロボットが静かに目を開いた。

そのロボットは人型につくられていた。人工の皮膚、髪、眼球など使用されているため、人間とたがわぬ外見を持っていた。

ゆっくりと首を回し、見開いたその視覚から誕生して初めて得る外界の情報を咀嚼しているようだった。

「私の声が聞こえるかね?」

博士がロボットにそう問いかけた。

「はい」

ロボットの顔が博士のほうにむけられると、そう涼やかな声で返事があった。

わざわざロボットを女性形にしたのはいったい誰の趣味か、ということはこちらへおいておくこととしよう。

順次、そのロボットの状態をモニターしながら、動作テストが行われていく。

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ロボット。

その開発は20世紀から始まっていた。そして、人型のロボットも今より数年前に開発はされていた。人間と同程度の器用さと、人間以上の強度を持ったロボットは、すでに金持ちたちの道楽趣向とステータスのために、ボディガード兼メイドタイプロボットが存在している。もっとも人型として生産されるのはそのタイプがほぼ90%を越えている。たとえば労働用や兵器としてのロボットはその合理性のために人型はほぼ生産されていない。

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「どうやら起動、動作、などに問題はないようだな」

「はい、博士」

「では、最重要テストだ」

そこでコホンと咳払いを一つするとこう言った。

「隣の家に垣根ができたってね・・・へー」

数瞬の間があいた後、クスリとロボットの表情が笑みの形を刻んだ。

「うむ。成功だな」

博士は重々しくつぶやいた。

「これで感情をもったロボットが完成したことを証明できただろう」

助手一同もそう思っていた。

もっとも彼らには、ロボットが同情による苦笑を浮かべたように見えたからだが。

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感情を持ったロボット完成、と学会に報じられるや、博士は一躍、時の人となった。

博士はかねてより念頭においていた、航空機制御プログラムにこの感情を持ったコンピュータを組み込むことを提唱。

その主旨は「たとえば墜落を前にしたコンピューター制御プログラムは恐怖を覚え、何としてでも墜落を回避しようと全力を挙げるだろう」ということであった。

つまりは感情を持つことにより、その行動の優先順位などへの良い影響を期待したものといえた。

大手航空機メーカーが参入し早々に実験に入ることとなり、実験や練習段階では全くミスは見られず、想定よりも早く実用に活かされることとなった。

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実用段階に入って3ヶ月後。

感情を持ったプログラムの制御下にあった航空機が墜落事故を起こした。

茫然自失の博士のもとに、事故調査委員会より呼び出しがかかった。

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実験やテスト段階では全くミスがなかったことを訴える博士に、調査委員は無言で一本の録音データを差し出した。

それを、博士は促されるままに再生した。

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「うはwwwww尾翼うごかねえじゃんwwwwwwwてかどーすりゃいいのよ。えぇ?エンジンとまったwwwwwちょwwwwwwおまwwwwwwww」

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墜落状態に入ってからの制御プログラムの状態を音声データ化したものらしかった。 博士の顔からみるみる血の気が引いていくのが見えた。

唐突に音声は途切れた。

博士の顔を見つめながらその調査委員は言った。

「これが実用段階に入ってからの初めての事故だったようです。あなたのプログラムは大変な上がり症だったようですな。初めてのトラブルにパニック障害を起こしたようですよ」

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2005/06/18

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微妙にあとがき